秋から冬にかけて、介護施設で特に備えておきたいのが、インフルエンザやノロウイルスによる感染性胃腸炎です。高齢者が生活する施設では、一人の体調変化が集団感染につながることもあります。
大切なのは、感染症ごとに対策を使い分け、疑った段階で動くこと。
この記事では、日常の予防から発生時の初動、ゾーニングまで、介護現場で押さえたいポイントを解説します。
※流行時期や規模は年・地域によって異なります。地域の感染症情報も確認してください。
秋・冬に流行る感染症とは?
秋・冬は、インフルエンザとノロウイルスによる感染性胃腸炎に注意が必要です。新型コロナウイルス感染症など、季節を問わず起こる感染症にも引き続き備えましょう。
| 感染症 | 主な症状 | 現場で重視する対策 |
|---|---|---|
| インフルエンザ | 発熱、咳、のどの痛み、強いだるさ | 換気、マスク、手指衛生、ワクチン |
| ノロウイルスによる感染性胃腸炎 | 嘔吐、下痢、腹痛など | 石けんと流水の手洗い、汚物処理、適切な消毒 |
| 新型コロナウイルス感染症 | 発熱、咳、のどの痛み、だるさなど | 換気、マスク、手指衛生、ワクチンの相談 |
RSウイルスなどでも高齢者が重症化することがあります。「冬の感染症」と決めつけず、年間を通じて体調の変化を観察することが大切です。
高齢者では、発熱が目立たず、食事量や活気の低下が先に現れる場合もあります。「いつもと違う」という気づきを、看護職への報告につなげましょう。
引用・参考(要約):厚生労働省「令和8年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」「介護現場における感染対策の手引き 第3版」
流行する感染症への対策
インフルエンザ|換気・加湿・マスク・ワクチンで備える
インフルエンザは、咳やくしゃみなどに伴うしぶきや、汚染した手などを介して広がります。人が集まる施設では、換気・加湿とマスク、手指衛生を組み合わせることが基本です。
- 暖房中も換気設備を動かし、必要に応じて窓を開ける
- 加湿器を稼働させて乾燥を防ぐ
- 近距離で介助する職員は、適切にマスクを着用する
- ケアの前後に手指衛生を行う
- 利用者・職員のワクチン接種について医師と相談する
- 発熱や咳、強いだるさがある職員は、出勤前に施設へ連絡する
ワクチンは、発症や重症化を防ぐための重要な手段です。接種後も基本的な感染対策を続けましょう。
発症した場合は、症状が出た時刻を記録して早めに医療職へ報告します。
抗インフルエンザ薬は一般に発症から48時間以内の開始で効果が期待されますが、48時間を過ぎたら受診や治療が不要になるわけではありません。治療は医師が判断します。
引用・参考(要約):厚生労働省「インフルエンザ総合ページ」
ノロウイルス|アルコールだけに頼らない
ノロウイルスは、便や嘔吐物で汚染した手・物品・食品などから口に入ることで感染します。嘔吐物の処理時には、飛散したものを介した感染にも注意が必要です。
特に重要なのは、石けんと流水でウイルスを洗い流すこと。アルコール消毒だけで済ませないようにしましょう。
トイレの後、排泄介助や嘔吐物処理の後、調理・配膳前、食事前には、指先や親指、指の間まで丁寧に洗います。
また、ノロウイルス汚染のおそれがある二枚貝などは、中心部を85〜90℃で90秒以上加熱することが推奨されています。食品安全委員会 – 食の安全、を科学する
引用・参考(要約):食品安全委員会「ノロウイルスによる食中毒にご注意ください」、厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
嘔吐物は「静かに・速やかに」処理する
施設の手順に沿って、次の流れで対応します。
- 周囲の利用者を離し、人が通らないようにする
- ガウン・手袋・マスク等を着用する。飛散のおそれには目も防護する
- 嘔吐物をペーパー(新聞紙)等で覆い、外側から内側へ静かに回収する
- 汚れを取り除き、新聞紙をさらに被せ適切に薄めた次亜塩素酸ナトリウムをかけて5分以上放置し、外側から内側に向かって拭き、破棄する。
- 使用物品を袋に入れて密封し、施設のルールに従って廃棄する
- 汚染面に触れないよう防護具を外し、石けんと流水で手を洗う
消毒剤は用途に合わせて選ぶ
次亜塩素酸ナトリウムを使う場合の濃度の目安は、次のとおりです。
| 用途の目安 | 濃度 |
|---|---|
| 便・嘔吐物による汚染箇所 | 0.1%(1,000ppm) 100ccに対して10cc |
| 汚れを除いた器具・環境表面など | 0.02%(200ppm) 100ccに対して2cc |
汚染の程度や対象物によって、必要な濃度・処理方法は異なります。原液の濃度、接触時間、材質への適合を確認し、製品表示と施設の手順に従ってください。
次亜塩素酸ナトリウムは手指に使わず、酸性製品と混ぜたり、空間に噴霧したりしないでください。「次亜塩素酸水」とは別のものです。
引用・参考(要約):厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
「社会福祉施設、介護保険施設等におけるノロウイルスによる感染性胃腸炎の発生・まん延防止策の一層の徹底について」
新型コロナウイルスなどの呼吸器感染症にも注意する
新型コロナウイルス感染症は、冬以外にも発生します。換気、手指衛生、場面に応じたマスク着用を継続しましょう。
高齢者施設の職員には、勤務中のマスク着用が推奨されています。一方、利用者には体調や認知機能に応じて対応し、着用が難しい場合は、職員側の防護や換気などで補います。
引用・参考(要約):厚生労働省「マスクの着用について」
感染症の基本対策
すべての利用者に標準予防策を行う(スタンダードプリコーション)
標準予防策とは、感染の診断にかかわらず、血液・体液・排泄物などを扱う場面で行う基本的な対策です。
- ケアの前後に手指衛生を行う
- 血液や排泄物などに触れる可能性があるときは手袋を着用する
- 衣服の汚染や飛散のおそれに応じて、エプロン・ガウン・目の防護具を使う
- 手袋は利用者ごと、汚れた作業から清潔な作業へ移る際に交換する
手袋をしていても、外した後の手指衛生は必要です。
常にそこに菌・ウイルスがあると意識しておこう!
換気と清掃を日常業務に組み込む
居室や食堂だけでなく、職員休憩室や更衣室の換気も確認します。
ドアノブ、手すり、共用の機器など、よく触れる場所は清掃し、必要に応じて病原体に合った消毒を行いましょう。
加湿だけで感染を防ぐことはできません。室温や利用者の負担に配慮しながら、換気を続けることが大切です。
「体調不良を言える・休める」職場をつくる
利用者の観察と同じくらい、職員の健康管理も重要です。発熱、嘔吐、下痢などを申告しやすくし、管理者が勤務を調整できる体制を整えます。
流行前には、防護具・消毒剤・嘔吐物処理セットの在庫と、夜勤帯を含む連絡先を確認しておきましょう。
引用・参考(要約):厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第3版」
体調不良時は基本的には職場の直電だと思いますが、連絡フローやシフト調整担当者もわかりやすくしておくと良いでしょう!
もし感染症が出てしまったら
最初に本人の状態を確認し、速やかに報告する
感染を疑ったら、まず呼吸、意識、水分摂取などを確認し、看護職・医師・管理者へ連絡します。
息苦しさ、意識の変化、水分が取れないなどがあれば、直ちに医療職へつなぎ、緊急時は救急要請します。
同時に、発症日時、症状、居室・利用場所、対応内容を記録します。
複数人に症状がある場合は一覧表にまとめると、広がりを把握しやすくなります。
バイタルなどを線グラフにするとわかりやすいです!
記録アプリを使用している場合は、グラフを見れる場合があります。
広げない|検査結果を待たずに接触機会を減らす
感染が確定する前から、症状に応じた対策を始めます。
- 可能な限り個室で対応する
- 接触職員は、ガウン・手袋・マスクを着用する
- 食事場所やトイレ、使用物品を分ける
- 担当職員を可能な範囲で固定する
- 共用物品を持ち出す場合は、必要な清掃・消毒を行う
- 集団活動や面会は、感染経路と発生状況に応じて調整する
感染対策中も、水分・食事・排泄・服薬などのケアを継続します。
本人の不安や孤立にも配慮しましょう。
ゾーニングの実施|区域と動線をセットで決める
ゾーニングは、清潔な区域と感染者の療養区域などを分け、病原体を持ち出さないための方法です。
床の色分けに加えて、人と物がどう動くかを決める必要があります。
| 区域の例 | 決めておくこと |
|---|---|
| 清潔区域(グリーンゾーン) | 未使用の防護具・清潔物品の置き場所 |
| 境界・着脱場所(イエローゾーン) | 防護具の着脱手順、手指衛生、廃棄場所 |
| 感染者の療養区域(レッドゾーン) | 専用物品、トイレ、担当職員、廃棄物の扱い |
| 感染が疑われる人の居室 | 可能な限り個室対応とし、確定者と区別する |
区域は感染経路と施設の構造に合わせ、医療職と相談して設定します。
疑い例を確定者と安易に同室にしたり、汚染した防護具のまま清潔区域へ戻ったりしないよう注意しましょう。
また、色分けや間仕切りだけで呼吸器感染症を防げるわけではありません。
換気や適切な防護具も併用します。
引用・参考(要約):厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第3版」

保健所・行政への相談と報告を行う
施設内で感染が広がるおそれがあれば、早めに保健所へ相談します。
厚生労働省の通知では、主に次の場合に、施設の主管部局と保健所への報告が必要とされています。
- 同一の感染症・食中毒による、または疑われる死亡者・重篤患者が、1週間内に2名以上発生
- 同一の感染症・食中毒の患者や疑い例が、10名以上または全利用者の半数以上発生
- 通常の発生動向を上回る発生が疑われ、施設長が報告を必要と判断
人数の基準に達するまで相談を待つ必要はありません。自治体の運用も確認し、発症者の人数、症状、対応状況を伝えましょう。
引用・参考(要約):厚生労働省「社会福祉施設等における感染症等発生時に係る報告について」
症状が治まっても、自己判断で対策を終えない
ノロウイルスは、症状が治まった後も便へのウイルス排出が続くことがあります。手洗いと排泄物の取り扱いには引き続き注意が必要です。
居室対応の解除や職員の復帰時期は、感染症の種類、経過、仕事内容を踏まえ、医師・看護職や施設の手順に沿って判断します。
引用・参考(要約):厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
まとめ
秋・冬の介護施設では、インフルエンザやノロウイルスを中心に、感染症ごとの備えが欠かせません。
- 呼吸器感染症への対策:換気・マスク・手指衛生・ワクチン
- ノロウイルスへの対策:石けんと流水の手洗い・静かな汚物処理・適切な消毒
- 発生時の対応:本人の状態確認・報告・接触機会の調整・ゾーニング
- 流行前の準備:**備品・連絡先・職員配置の確認
日常の基本対策と、疑った時にすぐ動ける準備が、利用者と職員を守ります。
まずは、手洗いのタイミングと嘔吐物処理セット、夜勤時の連絡手順から見直してみましょう。




















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