介護現場では、手洗いや手指消毒、マスクや手袋の着用、環境整備など、日々さまざまな感染対策を行っています。しかし、忙しい業務の中で対策を続けるには、単に「決まりだから行う」のではなく、なぜ感染対策が必要なのかを理解しておくことが大切です。
高齢者は加齢や基礎疾患などの影響で感染症にかかりやすく、感染すると重症化する可能性があります。また、高齢者施設では利用者と職員が同じ空間で生活・活動するため、一人の感染が施設全体へ広がるおそれもあります。
この記事では、高齢者施設で感染対策を行う理由、高齢者に多い感染症、特に注意したい感染症、感染症対策の基本について、介護現場の視点からわかりやすく解説します。

なぜ感染対策をする必要があるの?
感染対策の目的は、単に感染者を出さないことだけではありません。利用者の生命と生活を守り、職員の健康を守り、介護サービスを継続することが大きな目的です。

高齢者は免疫機能が低下し、重症化しやすい
人には、細菌やウイルスなどの病原体から身体を守る免疫機能があります。しかし、加齢に伴って免疫機能は低下しやすくなります。糖尿病、心疾患、呼吸器疾患、腎疾患などの基礎疾患がある場合や、低栄養、脱水、睡眠不足、活動量の低下がある場合は、さらに感染症への抵抗力が弱くなることがあります。
そのため、若い人では軽症で済む感染症でも、高齢者では肺炎や脱水、意識障害などにつながり、入院が必要になる場合があります。感染を防ぐことはもちろん、感染の兆候を早期に発見して重症化を防ぐことも重要です。
健康な人では問題になりにくい病原体にも感染しやすい
免疫機能が保たれている人では発症しにくい病原体でも、抵抗力が低下した高齢者では感染症を引き起こすことがあります。これを日和見感染といいます。
また、高齢者は皮膚が薄く傷つきやすい、嚥下機能が低下して誤嚥しやすい、排泄後の清潔保持が難しい、医療処置やカテーテルを使用しているなど、感染につながる要因を複数抱えていることがあります。
典型的な症状が現れにくく、発見が遅れやすい
高齢者は、感染していても高熱が出ないことがあります。食欲低下、元気がない、眠気が強い、会話が減る、ふらつく、尿量が減るなど、普段との小さな違いだけが初期症状として現れる場合もあります。
「熱がないから感染症ではない」と判断せず、日頃の状態を知る介護職員が変化に気づき、看護職員や医師へ早めに報告することが重要です。
免疫機能が低下しているからこそ、症状が出にくい
高齢者施設では集団感染が起こりやすい
高齢者施設では、食事、入浴、レクリエーション、排泄介助などを通して、人と人が接触する機会が多くあります。認知症などによって感染対策への理解や協力が難しい利用者もいるため、病原体が施設内に持ち込まれると短期間で広がる可能性があります。
職員は複数の利用者を介助します。手指衛生や防護具の交換が不十分であれば、職員の手や衣服、共用物品を介して感染を広げることもあります。だからこそ、一人ひとりが基本的な対策を毎回確実に行う必要があります。

高齢者に多い感染症
高齢者に多い感染症は、呼吸器、消化器、尿路、皮膚などさまざまです。代表的なものを理解しておくと、日常の観察や早期対応に役立ちます。

呼吸器感染症
- 肺炎
- インフルエンザ
- 新型コロナウイルス感染症
などが代表的です。発熱、咳、痰、鼻水、息苦しさ、酸素飽和度の低下などがみられますが、高齢者では食欲低下や活気の低下だけの場合もあります。
特に誤嚥性肺炎は、唾液や食べ物、胃の内容物などが気管へ入り、口腔内の細菌が肺で炎症を起こすことで発症します。口腔ケア、食事姿勢の調整、嚥下状態の観察が予防につながります。
感染性胃腸炎
ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎では、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などがみられます。少量の病原体でも感染が広がりやすく、嘔吐物や便の処理が不適切だと集団感染につながります。
高齢者は嘔吐や下痢によって脱水を起こしやすいため、水分摂取量、尿量、意識状態などの観察も欠かせません。
尿路感染症
膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症も高齢者に多い感染症です。排尿時の痛みや頻尿だけでなく、発熱、尿の濁りや臭いの変化、食欲低下、急な混乱などがみられることがあります。
陰部の清潔保持、適切な排泄介助、水分摂取の支援、尿道カテーテルの適切な管理が大切です。ただし、尿の臭いや濁りだけで感染症と断定せず、全身状態を含めて医療職へ報告しましょう。

現場で働いていると、この尿路感染は比較的多く見られます。
特徴的な症状が
・急激な発熱(高熱)
・急激な寒気(震え)
皮膚感染症
- 疥癬
- 帯状疱疹
- 蜂窩織炎白癬
などがあります。高齢者は皮膚が乾燥して傷つきやすく、掻き壊しや褥瘡から感染することもあります。発赤、腫れ、熱感、痛み、水疱、強いかゆみなどを観察します。
高齢者が特に気を付ける感染症

インフルエンザ
インフルエンザは急な発熱、咳、倦怠感などを起こし、高齢者では肺炎や基礎疾患の悪化につながることがあります。ワクチン接種、手指衛生、換気、咳エチケット、体調不良者との接触機会を減らすことが重要です。
新型コロナウイルス感染症
高齢者や基礎疾患のある人は重症化リスクが高いため、施設の方針や地域の流行状況に応じた対策が必要です。発熱、咳、咽頭痛だけでなく、食欲低下、倦怠感、呼吸状態の変化にも注意します。
ノロウイルス感染症
ノロウイルスは感染力が強く、施設内で広がりやすい感染症です。アルコール消毒だけに頼らず、石けんと流水による手洗いを行い、嘔吐物や便は施設の手順に沿って塩素系消毒剤などを用いて適切に処理します。処理時には、手袋、マスク、使い捨てエプロンなどを着用します。
肺炎・誤嚥性肺炎
肺炎は高齢者にとって重症化しやすい感染症の一つです。誤嚥性肺炎の予防では、口腔ケア、食事前の覚醒確認、適切な姿勢、一口量や食形態の調整、食後すぐに横にならないことなどが大切です。むせがなくても誤嚥している場合があるため、呼吸状態や食後の変化も観察します。
疥癬
疥癬はヒゼンダニによる皮膚感染症です。強いかゆみや発疹が特徴ですが、高齢者では症状が分かりにくい場合もあります。通常疥癬と角化型疥癬では感染力や対応が異なるため、疑わしい症状があれば早めに医師へ相談し、自己判断で対応しないことが重要です。
感染症対策の基本

標準予防策をすべての利用者に行う(スタンダードプリコーション)
標準予防策とは、感染症の診断の有無にかかわらず、すべての人の血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜などには感染の可能性があると考えて対応する基本的な考え方です。
「感染症の利用者だけに対策する」のではなく、すべてのケアで必要な対策を選択することが、感染の持ち込みと拡大を防ぎます。
- 手袋
- マスク
を支援時に着用します。

手指衛生を正しいタイミングで行う
手指衛生は感染対策の基本です。利用者に触れる前後、清潔なケアの前、血液や体液に触れた可能性があるとき、利用者の周辺環境に触れた後などに行います。
- 目に見える汚れがある場合は、石けんと流水で手を洗う
- 適切な量の手指消毒液を手全体に擦り込む(アルコール)
- 手袋を外した後も、必ず手指衛生を行う
- 指先、親指、指の間、手首は洗い残しやすいため意識する
個人防護具をケア内容に応じて選ぶ
手袋、マスク、エプロン、ガウン、アイシールドなどの個人防護具(PPE)は、想定される接触や飛散に応じて選びます。着用するだけでなく、汚染面に触れないよう正しい順序で外し、外した後に手指衛生を行うことが重要です。
手袋を着けたまま複数の利用者を介助したり、汚染した手袋でドアノブや記録端末に触れたりすると、かえって感染を広げる原因になります。手袋は一利用者・一処置を基本として交換します。
感染経路に応じた対策を追加する
標準予防策に加え、感染症の特徴に応じて接触予防策、飛沫予防策、空気予防策などを行います。居室の調整、換気、共有物品の使用制限、動線の分離などは、医療職や管理者と相談し、施設のマニュアルに沿って実施します。
環境消毒と換気を行う
ドアノブ、手すり、テーブル、スイッチ、トイレ周辺、共用端末など、複数の人が触れる場所は適切に清掃します。消毒剤は対象となる病原体、濃度、接触時間、材質への影響を確認し、施設の手順に従って使用します。換気についても、利用者の室温や体調に配慮しながら行います。
利用者と職員の健康状態を観察する
体温だけでなく、咳、痰、呼吸状態、食欲、嘔吐、下痢、皮膚症状、意識状態、活動性などを確認します。普段との違いを記録し、同じような症状の利用者や職員が複数いないか情報共有することが早期発見につながります。

職員の風邪症状・熱発時には出勤制限をするという基準を設定し、全職員への周知しておくと感染を予防できます。
予防接種と日頃の体調管理を支援する
感染症や本人の状態に応じた予防接種について、医師と相談できる環境を整えます。また、十分な栄養と水分、睡眠、口腔ケア、適度な活動など、抵抗力を保つ日常生活の支援も感染予防の一部です。
感染が疑われるときの対応

- いつもと違う変化に気づく:発熱だけでなく、食欲や活気、呼吸、排泄などを確認する
- 速やかに報告する:看護職員、管理者、医師などへ、症状と経過を具体的に伝える
- 感染拡大を防ぐ:必要な防護具を着用し、接触範囲や共用物品を調整する
- 記録と情報共有を行う:発症日時、症状、対応、接触状況を記録する
- 施設の手順に従う:受診、検査、隔離、家族への連絡、行政への報告などを適切に進める
対応方法は感染症や施設の状況によって異なります。現場の職員だけで判断せず、施設の感染対策マニュアルと医療職・管理者の指示に従いましょう。
まとめ
高齢者は免疫機能の低下や基礎疾患などにより感染しやすく、感染後に重症化する可能性があります。さらに、高齢者施設は人との接触が多く、一人の感染が集団感染につながりやすい環境です。
感染対策で大切なのは、特別なことを一度だけ行うことではありません。手指衛生、適切な防護具、環境整備、健康観察、早期報告といった基本を、すべての職員が日々確実に続けることです。
感染対策は、利用者の命と尊厳、職員の健康、そして介護サービスの継続を守るために行います。「なぜ行うのか」をチーム全体で共有し、実践できる仕組みを整えていきましょう。
参考資料
※本記事は介護現場での一般的な感染対策を解説したものです。個別の診断・治療・隔離方法については、医師や看護職員の指示、施設のマニュアル、自治体・保健所の案内に従ってください。



















良く「感染対策して」と言われるけど、なぜそれほど大事なのかを、今更ですが少し触れていきたいと思います!