BPSDとは?認知症の行動・心理症状の原因と介護現場でできる関わり方を解説

BPSDとは?認知症の行動・心理症状の原因と介護現場でできる関わり方を解説

認知症の方への介護をしていると、「何度説明しても帰ろうとする」「介護を拒否される」「突然怒り出してしまう」といった場面に遭遇することがあります。

こうした認知症に伴ってみられる行動や心理的な症状をBPSD(認知症の行動・心理症状)と呼びます。

BPSDが強くなると、ご本人がつらいだけでなく、介護する家族や介護職員の負担も大きくなります。

しかし、BPSDは単なる「認知症だから仕方がない行動」と考えるべきではありません。

その方の気持ちや生活歴、周囲の環境、介護職員の関わり方などを見直すことで、症状を軽減できる可能性があります。

この記事では、BPSDとは何か、なぜ起こるのか、そして介護現場ではどのような関わり方が必要なのかを、現場目線でわかりやすく解説します。

BPSDとは

BPSDとは、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)のことです。

認知症では、記憶障害や見当識障害、理解・判断力の低下などの「中核症状」がみられます。

一方で、認知症の方すべてに同じように現れるわけではなく、本人の性格や生活歴、身体状態、周囲の環境、人との関わり方など、さまざまな要因が重なって現れるのがBPSDです。

代表的なものには、次のような症状があります。

  • 暴言・暴力
  • 介護拒否
  • 不安・焦燥
  • 抑うつ
  • 妄想
  • 幻覚
  • 睡眠障害
  • 歩き回る行動
  • 大声を出す
  • 不潔行為 など

我々、介護現場の目線でひとことで表現するのであれば、

「本人の不安や不快感、環境、人との関わりなどを背景として現れる認知症の症状」

と考えると理解しやすいでしょう。

BPSDには必ず理由がある

BPSDを理解するうえで大切なのは、目の前の「行動」だけを見るのではなく、なぜその行動をしているのかを考えることです。

例えば、

自分の訴えを否定された
→ 怒りや不安が強くなり、暴言・暴力につながる

「家に帰りたい」と感じる環境や騒音などがある
→ 落ち着かなくなり、歩き回る・帰宅しようとする

オムツが汚れて不快なのに交換してもらえない
→ 自分で何とかしようとして、便を触るなどの不潔行為につながる

といったことが考えられます。

介護する側から見ると「困った行動」に見えるかもしれません。

しかし、本人の立場から考えてみると、その人なりの理由があって起こしている行動である場合があります。

だからこそ、

「どうやってこの行動を止めよう?」

だけではなく、

なぜこの行動をしているのだろう?

と考えることがBPSDへの対応の第一歩です。

BPSDで何が困る?

BPSDが発現して最もつらいのは、もちろんご本人です。

強い不安や混乱、恐怖、怒りなどを抱えながら生活している可能性があるからです。

しかし、介護現場ではもう一つ大きな問題があります。

それが、介護職員の業務負担が増えたり、必要な介護が行えなくなったりすることです。

例えば、暴言や暴力がみられれば、他の利用者とのトラブルを防ぐために職員が仲裁に入る必要があります。

場合によっては、介護職員自身に危害が及ぶこともあるでしょう。

歩き回る行動が増えれば、転倒や無断外出などの事故を防ぐため、見守りを強化する必要があります。

排泄に関連する不潔行為があれば、ご本人の清潔保持や居室の清掃、衣類・寝具交換などの対応も必要になります。

さらに介護拒否が強くなれば、

  • 食事
  • 排泄
  • 入浴
  • 口腔ケア
  • 更衣
  • 服薬
  • 移乗

など、日常生活に必要な支援そのものが難しくなる場合があります。

BPSDは他の利用者様へのケアにも影響する

介護施設では、一人の職員が複数の利用者を支援しています。

そのため、一人の利用者への対応に長時間を要すると、その間に他の利用者への見守りやケアが十分に行えなくなる可能性があります。

結果として、

「コール対応が遅れる」

「見守りが手薄になる」

「予定していたケアが遅れる」

といった状況が発生し、転倒などの事故につながる危険性もあります。

BPSDへの適切な対応は、本人の生活の質(QOL)を守るだけでなく、介護職員の負担軽減や施設全体の安全なケアにもつながる重要な取り組みなのです。

だからこそ、BPSDを少しでも減らせるのであれば、それに越したことはありません。

BPSDは関わり方次第で減らせる

BPSDは、さまざまな要因によって発現します。

例えば、

  • 認知症そのものによる認知機能の変化
  • 不安や寂しさ
  • 痛み・便秘・発熱・脱水などの身体的不調
  • 睡眠不足
  • 薬の影響
  • 騒音や室温などの生活環境
  • 人間関係
  • 介護職員の声かけや接し方

などです。

もちろん、すべてを介護職員の力だけで解決することはできません。

疾病や薬剤などが関係している場合には、看護職や医師など多職種との連携も必要になります。

では、この中で我々介護職員が比較的取り組みやすいものは何でしょうか?

その一つが、「人との関わり方」です。

実際は簡単ではありません。

同じ声かけでも受け入れてもらえる日もあれば、拒否される日もあります。

それでも、介護職員が認知症について理解し、一人ひとりに合わせた声かけや支援を工夫することで、BPSDの発現を減らせる可能性があります。

つまり、

「BPSDを止める」のではなく、「BPSDが起こりにくい環境や関係性をつくる」

という考え方が重要です。

BPSDを減らすために介護職員ができる関わり方

それでは、BPSDを減らすためには、具体的にどのような関わり方をすればよいのでしょうか。

ここからは介護現場で意識したいポイントを紹介します。

認知症の原理を理解し、基礎知識を身につける

まず重要なのが、認知症について正しく理解することです。

認知症によって記憶力や判断力、理解力などが低下すると、本人から見えている世界と、介護職員から見えている現実に「ズレ」が生じることがあります。

例えば、本人が「財布を盗まれた」と訴えているとします。

職員からすれば、

「誰も盗んでいませんよ」

と訂正したくなるかもしれません。

しかし、本人にとっては本当に財布が見つからず、「盗まれた」と感じている可能性があります。

そこで重要になるのが、

「なぜそういう言動をしているのか?」

「本人は今、どのような感情なのか?」

と考えることです。

言動だけを見るのではなく、その背景にある感情や原因を考えることがBPSDへの適切な対応につながります。

説得するのではなく、納得してもらう

認知症ケアでは、本人を「説得する」ことに一生懸命になってしまうことがあります。

しかし、こちらの正論を一方的に伝えても、本人が納得できなければ意味がありません。

例えば「家に帰る」と話している方に対して、

「ここがあなたの家ですよ」

「今日は帰れません」

と何度説明しても、納得できなければ不安や怒りが強くなってしまう可能性があります。

まずは、

「家に帰りたいんですね」

「何か気になることがありますか?」

など、本人の気持ちを受け止めてみましょう。

そのうえで話題を変えたり、本人が安心できる場所へ誘導したりするなど、状況に合わせて対応します。

正しいことを理解してもらうことよりも、本人が安心して納得できることを目指す。

これが大切です。

その人らしさやこれまでの暮らしを考える

認知症ケアでは「認知症の利用者」として見るのではなく、一人の人間としてその人を理解することが重要です。

これまでどのような仕事をしてきたのか。

どのような生活を送ってきたのか。

何が好きなのか。

何が嫌いなのか。

どのようなことを大切にしてきたのか。

こうした生活歴や価値観を知ることで、本人の行動の理由が見えてくる場合があります。

例えば、夕方になると「家に帰る」と訴える方がいたとします。

単純に「認知症だから帰宅願望がある」と考えるのではなく、

「以前はこの時間に子どもの夕食を作っていた」

「仕事から帰る時間だった」

など、その人のこれまでの暮らしが関係している可能性もあります。

その人らしさを知ることは、BPSDを理解するヒントになります。

信頼関係を築く

介護を受ける側からすれば、自分の身体を他人に触られたり、服を脱がされたりすることは非常にデリケートな行為です。

信頼できない相手から突然介助されれば、拒否したくなるのも当然でしょう。

普段から挨拶をする。
本人の話を聞く。
笑顔で接する。
名前を呼んでから話しかける。

こうした日常的な積み重ねが信頼関係につながります。

「この人なら大丈夫」と思ってもらえる関係をつくることが、介護拒否やBPSDの軽減につながります。

言語・準言語・非言語を併用する

コミュニケーションは「言葉」だけではありません。

人とのコミュニケーションには、

言語
→ 話している内容そのもの

準言語
→ 声の大きさ、速さ、トーン、話し方

非言語
→ 表情、視線、姿勢、ジェスチャー、距離感

などがあります。

いくら優しい言葉を使っていても、怖い表情で早口に話していれば、本人に安心感を与えることは難しいでしょう。

認知症の方と接するときには、何を言うかだけではなく、どのように伝えるかまで意識することが大切です。

本人の能力に応じたコミュニケーションを図る

認知症の症状や進行度は人によって異なります。

長い説明が理解しにくい方には、一度に多くの情報を伝えず、

「こちらに座りましょう」

「お茶を飲みませんか?」

など、一つずつ簡潔に伝えることが有効です。

また、言葉だけでは理解しにくい場合には、実物を見せたり、身振りを交えたりすることも有効です。

本人に理解してもらえないのではなく、こちらの伝え方が本人に合っているかを考えることも重要です。

責めない・叱らない・否定しない

認知症の方の言動に対して、

「何回言ったら分かるんですか?」
「さっき説明しましたよ」
「そんなことしてはダメです」

などと責めたり叱ったりすると、本人の不安や怒りを強めてしまう可能性があります。

認知症による記憶障害などは、本人が努力すれば簡単に改善できるものではありません。

本人の間違いを訂正することよりも、なぜそのような行動をしたのかを考えることを優先しましょう。

人は衝撃的なことや嫌なことはすごく記憶します。
否定や叱ることは、ご本人にとって辛く、衝撃的なことです。その為、記憶にも残りやすく、その後の不安感増加や関係悪化、介護拒否に繋がります。

命令・禁止などのスピーチロックをしない

介護現場では忙しさから、

「座っていてください」
「立たないでください」
「待ってください」
「動かないでください」

といった言葉を使ってしまうことがあります。

こうした言葉によって本人の行動を制限することを「スピーチロック」と呼ぶことがあります。

もちろん、事故を防ぐために声をかけなければならない場面もあります。

しかし、禁止するだけでは本人は納得できません

例えば、
「立たないでください」
ではなく、
「どうしましたか?」
「どこか行きたいところがありますか?」

と理由を確認することで、その方が立ち上がった目的が分かるかもしれません。

行動を止めることだけを目的にせず、その行動の理由を探ることが重要です。

感情を理解して寄り添う

認知症が進行しても、「うれしい」「怖い」「悲しい」「腹が立つ」といった感情がなくなるわけではありません。

むしろ、何が起きているのか理解できないことで、強い不安を感じている場合もあります。

そのため、

「怖かったですね」
「心配だったんですね」
「帰りたいんですね」
など、まず本人の感情を受け止めることが大切です。

事実が正しいかどうかではなく、その人が感じている感情を理解する。

この姿勢が安心感につながります。

相手を敬う気持ちを持つ

最後に、最も基本的でありながら重要なのが、相手を一人の人間として敬うことです。

認知症になっても、その人の人生や人格、尊厳が失われるわけではありません。

「認知症だから分からないだろう」

「どうせ忘れるから」

といった考え方は、声のトーンや態度、表情などに表れてしまいます。

介護職員と利用者という関係以前に、人と人との関係です。

相手を敬い、尊厳を守りながら関わることが、認知症ケアの基本になります。

BPSDが現れたときは「行動」ではなく「原因」を考える

BPSDへの対応で大切なのは、症状が現れてからその行動を無理に止めることだけではありません。

例えば、歩き回っている利用者に対して、

「座ってください」

と声をかけ続けるだけでは、根本的な解決にならないことがあります。

そこで介護職員に意識してほしいのが、

「なぜ?」を考えることです。

なぜ歩いているのか?
なぜ怒っているのか?
なぜ介護を拒否しているのか?
なぜ大声を出しているのか?
なぜ帰りたいのか?

その背景には、

  • トイレに行きたい
  • お腹が空いた
  • 痛いところがある
  • 暑い・寒い
  • 周囲がうるさい
  • 不安を感じている
  • 家族に会いたい
  • 介助方法が怖い
  • 職員の声かけが理解できない

など、本人なりの理由が隠れているかもしれません。

BPSDそのものを問題として見るのではなく、「本人からのサイン」として捉えてみることが重要です。

BPSDは一人で対応せずチームで考える

BPSDへの対応は、介護職員一人で抱え込む必要はありません。

「Aさんは最近、夕方になると落ち着かなくなる」

「入浴前になると怒ることが多い」

「この職員が声をかけると落ち着く」

など、日々の様子を記録し、職員間で共有しましょう。

さらに必要に応じて、看護職、ケアマネジャー、医師、リハビリ職など多職種と連携します。

特にBPSDが突然強くなった場合には注意が必要です。

痛みや便秘、感染症、脱水、睡眠不足、薬剤の影響など、身体的な問題が隠れている可能性もあります。

「認知症だから」と決めつけず、普段との違いを観察し、必要に応じて医療職へ報告することも重要です。

また、「いつ・どこで・何が起きる前に・どのような症状が出たか・その後どう対応したか」
を記録していくと、BPSDが起こりやすい条件や有効な対応方法が見えてくることがあります。

一人の経験だけで判断するのではなく、チーム全体で「なぜ起きているのか」を考えることがBPSDの軽減につながります。

まとめ|BPSDを「困った行動」で終わらせないことが大切

BPSDとは、認知症に伴ってみられる行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)のことです。

暴言・暴力、介護拒否、不安、妄想、歩き回る行動、不潔行為など、さまざまな形で現れます。

BPSDが発現すると、ご本人がつらいだけでなく、介護職員の負担が増え、場合によっては他の利用者へのケアにも影響します。

だからこそ、BPSDを単純な「困った行動」として捉えないことが大切です。

「なぜ、この人はこの行動をしているのだろう?」

と考えてみてください。

そこには、不安や寂しさ、身体的不調、環境への不適応、伝えたいことが伝わらないもどかしさなど、本人なりの理由が隠れているかもしれません。

そして我々介護職員ができることはたくさんあります。

認知症について理解する。
本人の話を否定せずに聞く。
説得するのではなく納得してもらう。
生活歴やその人らしさを知る。
伝え方を工夫する。
信頼関係を築く。

そして、一人の人間として相手を敬う。

こうした日々の小さな関わりの積み重ねが、BPSDの軽減につながっていきます。

BPSDを無理に抑える介護ではなく、BPSDが起こっている理由を理解する介護へ。

それが、認知症の方にとっても、介護する職員にとっても、より良い認知症ケアにつながるのではないでしょうか。

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ABOUT US
Shatten_Leonard
特養で介護福祉士として10年働いております。 その経験と知識を活用し、介護職への方はもちろん、利用者本人・そのご家族様・介護に携わる皆様、そして、これから介護に携わりたいと思っている皆様のお役に立てればとブログを始めました!