高齢者介護の現場において、「転倒・骨折」は発生頻度が高く、かつ重大な事故のひとつです。
一度骨折が起きると、利用者本人の生活機能が大きく低下するだけでなく、施設の信用問題にも直結します。
本記事では、介護施設で骨折が疑われる場面での初期対応から、その後のリスクマネジメント、職員教育、再発防止策まで、包括的に解説します。
目次
なぜ介護施設で骨折が起きやすいのか
高齢者の骨折は、単なる“転倒”がきっかけになるとは限りません。
背景には複数のリスク要因が複雑に絡み合っています。
高齢者が骨折しやすい主な要因
- 骨粗鬆症(骨密度の低下)
- 筋力・バランス力の低下
- 視力・聴力の低下
- 認知症に伴う行動障害
- 内服薬の副作用(眠気・ふらつき)
- 環境要因(段差、滑りやすい床、暗い廊下など)
このように、「いつ・どこで・誰でも起こり得る」のが骨折事故です。
だからこそ施設として、“平時からの備え” と “事故発生時の適切な対応” の両方が必須となります。
骨折を疑った瞬間に行うべき初期対応
骨折の疑いを発見し、早急な対応は利用者本人の苦痛軽減においても重要です。
疑わしい場合は、すぐさま看護師及び上司に報告しましょう。
1.1 利用者の状態を確認する(観察)
まずは意識状態と痛みの有無を確認します。
- 意識:呼びかけへの反応はあるか
- 呼吸:苦しそうな様子はないか
- 痛み:どの部位が痛いかはっきり言えるか
- 変形:左右で長さが違う、腫れ、変形はないか
- 動かせるか:自然な動作は可能か(無理には動かさない)
ポイント
無理に立たせたり、歩かせようとしないこと。特に大腿骨頚部骨折は歩行可能に見えても骨折しているケースが多い。
1.2 骨折を疑うサイン
以下の症状がある場合は “骨折の可能性が高い” です。
- 触れただけで強い痛み
- 腫れ・紫斑(内出血)
- 不自然な変形や角度
- 体重をかけられない
- “ポキッ”という音を聞いた
1.3 応急処置
① 安静保持(最優先)
痛みのある部位は絶対に動かさず、体勢を整える。
骨折疑い時に大切なことは、安静にしてもらい、状態及び痛みの悪化を防止することです。
② 冷却
患部を冷やし腫れを軽減(氷のう・保冷剤など)
※ただし凍傷に注意し、タオル越しに。
③ 固定(可能であれば)
副木やタオル、クッションで軽く固定。
④ 看護師・管理者へ即時報告
介護士の独断では判断せず、施設の事故対応フローに沿って連絡。
日頃から、対応フロアーは確認しておこう!
1.4 医療機関への搬送判断
以下の状況は 即搬送レベル です。
- 強い痛みで動けない
- 明らかな変形・短縮
- 出血が止まらない
- 意識レベルの低下
- 頭部を強打した(骨折+脳出血の危険)
救急搬送か、家族同意のうえ提携病院へ移動します。
家族への連絡と説明ポイント
事故後の連絡は、
“正確に、冷静に、事実だけを伝える”
ことが重要です。
事故対応したスタッフには、正確な聞き取りと、正確な記録を残すように伝えよう!
2.1 家族へ伝えるべき内容
- 発生時間
- 発生場所
- 発見者と状況
- 本人の症状
- 初期対応の内容
- 医療機関受診の判断
- 今後の対応の流れ
感情や推測は入れず、事実に基づいて説明します。
2.2 クレームにつながるNG説明
- 「大したことありません」
- 「本人が勝手に動いたので」
- 「忙しかったので仕方ありません」
どれも利用者家族の不信感を高める原因になります。
また、その場約束、例えば「治療費はこちらで持ちますので」も言ってはいけません。
あとは、とにかく謝罪をすることが大切です。
謝罪=非を認める、責任を認める事にはならない趣旨の判例もあります。
医療機関受診後〜施設復帰までのケア
3.1 医師からの情報共有
- 骨折の種類(大腿骨・橈骨・肋骨など)
- 治療方針(手術・保存療法)
- 安静度やリハビリ開始時期(立位や歩行は可能か)
- 疼痛コントロール方法(頓服薬の有無)
- 入浴の有無
これらを明確に記録し、スタッフ全員で共有します。
3.2 リハビリ計画の作成
骨折後は廃用症候群のリスクが高まるため、
リハビリ専門職(PT/OT)との連携 が必須です。
目的
- 筋力・可動域の維持
- 認知症の進行を防ぐ
- 再転倒防止
- 生活動作(ADL)の再獲得⇒自立復帰
進行イメージ
- 痛みと腫れの軽減
- 体幹・座位バランスの訓練
- 歩行訓練
- 必要に応じて環境調整
事故後のリスクマネジメント(再発防止)
骨折事故は、原因の分析と改善が「再発防止の鍵」です。
4.1 事故発生後の振り返り(ヒヤリ・ハットを含む)
① 原因の分類
- 人的要因:観察不足、声かけ不足
- 環境要因:段差、照明不足、滑りやすさ
- 利用者要因:認知症・歩行不安定・夜間せん妄・むくみ・疾病
- 組織要因:人員配置、記録不足、共有不足
② 事実と推測を分けて検証
事故報告書は「誰が読んでも同じ状況が把握できる」レベルで詳細に。
ハインリッヒの法則に則り、ヒヤリハットをリーダー中心に分析しましょう!
4.2 再発防止の具体策
ここでは、介護施設の現場で実際によく使われている施策をピックアップ。
● 施設環境改善
- ベッド周りの整理
- 床材の見直し(滑りにくい素材へ)
- 手すりの増設(適切な位置か)
移動タイプもある - 夜間照明の導入(センサーライトが便利)
- 床マット・センサーの活用
- 見守りセンサーの導入
一昔前までは、センサーマットなどのセンサー系は拘束に該当するか議論されていましたが、最近では、利用者様の安全を最優先にセンサー系の設置が推奨されています。
● 支援内容の見直し
- 起き上がり・移乗介助の方法統一
- 転倒リスクの高い時間帯(夜間・早朝)の巡回強化
- 服薬の見直し(眠気・ふらつきの副作用)
常日頃から、ADLの把握と共有は欠かせません
単なる「見守り強化」は推奨できません。見守りには限界がありますし、安易にできるかわからない「見守り強化」をご家族様に伝えたり、ケアプランに組み込むと、万一見守り不足で事故が起きた場合には、契約違反としてみなされる可能性があります。
● 職員教育
- 骨折のサインの見抜き方
- 正しい体位保持と介助技術
- 緊急時の報告ライン・フローの徹底
- 新人含めた定期研修
- 記録の書き方、共有の仕方
- ヒヤリハットを気軽に出せる仕組みを作る
● 個別支援の充実
- 生活リズムの調整(24時間シートなどを活用)
- その人に合った歩行補助具の選定
- 認知症症状に合わせた見守りの工夫
パーソンセンタードケアの理念に基づき、他職種連携が重要です
骨折後の心理的ケアも忘れない
骨折は身体だけでなく、利用者の 心の負担 も大きくします。
よくある心理状態
- 「また転ぶのでは?」という恐怖
- 自信喪失
- 行動量の低下
- 不安や抑うつ
アプローチ方法
- リハビリ成功体験を積んでもらう
- 声かけと安心の提供
- 家族と連携した励まし
- 適切な活動量の調整
心のケアは機能回復に直結します。
まとめ:介護施設の骨折対策は“チーム力”で決まる
骨折事故は、一人の職員の力量では防ぎきれません。
大切なのは、以下の3つです。
- 事故発生時の迅速で正確な初期対応
- 医療・家族・リハビリと連携した継続ケア
- 施設全体で取り組む再発防止の仕組み化
骨折をゼロにすることは難しくても、
「重大事故を未然に防ぐこと」は組織力で大きく改善できます。
利用者の尊厳を守り、家族から信頼される施設でいるために、
今日からできる小さな改善を積み重ねていきましょう。















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