介護施設で働くと、突然「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった呼吸音、いわゆる、喘鳴(ぜんめい)が聞こえてドキッとする瞬間があります。
呼吸は生命維持の重要な要素。
介護職が最前線で変化に気づき、適切に行動できるかどうかは、利用者の安全な暮らしを左右します。
この記事では、呼吸苦(特に喘鳴)が見られた際の現場での初期対応・医療連携の判断その後のリスクマネジメント、そして施設全体での再発防止策までを解説いたします。
目次
呼吸苦(喘鳴)とは?
● 喘鳴とは
気道が狭くなることで、呼吸時に鳴る「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音のこと。
高齢者では以下の原因が多くみられます。
● 高齢者に多い原因
- 気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪
- 心不全による肺うっ血
- 肺炎などの感染症
- たんの貯留による気道狭窄
- アレルギー反応
- 誤嚥
- 体位不良による換気の低下
- 薬剤(β遮断薬など)による副作用
特に介護施設では、痰の貯留・誤嚥・体位不良・感染症が非常に多いため、日頃からの観察が重要になります。
呼吸苦(喘鳴)が見られたときの初期対応フロー
「まず何をすればいいか?」を迷わないよう、介護職向けに即動ける順番でまとめています。
① 安全確保と観察(10秒以内)
まずは落ち着いて、利用者の状態を即確認します。
観察ポイント
- 呼吸状態:努力呼吸・肩呼吸・呼吸回数増加
- 喘鳴の有無:吸気か呼気か
- 意識レベル:JCSの変化
- 顔色:チアノーゼ(唇や爪の紫色)
- 姿勢:前屈姿勢のほうが呼吸しやすい場合あり
- 痰の量と性状
- SpO₂(測定可能なら):適正値は96〜99%
② 体位調整(まずはこれが最も効果的)
呼吸苦の初期対応は“体位”で大きく改善します。
効果的な体位
- ファーラー位(30〜45度)
- 前傾姿勢(卓上にクッション)
- 側臥位(痰が片側に偏っている場合効果的)
呼吸状態が改善したら、そのまま安静保持します。
③ 痰の有無を確認 → 排痰援助
高齢者の呼吸苦の最大要因は“痰の貯留”です。
支援
- 水分補給(医師の指示範囲内):脱水になると痰が形成されやすい
- 吸引可能な職員による 口腔・鼻腔吸引
- 軽い“背部叩打法(タッピング)”で痰を動かす
- 加湿器・蒸気吸入の調整
※無資格者が吸引を行ってはいけない点に注意。
介護職員でも、喀痰吸引等研修の第1号・第2号・第3号を修了している方は、決められた範囲で吸引が可能
④ バイタル測定
- 体温
- 血圧
- 脈拍
- 呼吸数
- SpO₂(測定可能な場合)
呼吸苦の重症度判断には“呼吸数”と“SpO₂”が非常に重要です。
⑤ 看護師へ即報告(SBARで)
介護施設の現場で最も重要な連携ポイント。
看護師へはSBARで簡潔に伝えると正確です。
【S】状況:「呼吸がゼーゼーしています」
【B】背景:「痰が多い方で、昨日から咳が続いています」
【A】評価:「SpO₂が90%で、努力呼吸あり」
【R】提案:「看護師さんの判断をお願いします」
▼ ⑥ 必要時:救急要請
以下は即救急要請レベルです。
- SpO₂が急激に低下(90%以下)※日常的に測り、普段のSpo2を把握することが大事
- 意識が低下
- チアノーゼ出現
- 呼吸数が30回以上
- 会話困難(単語レベルで苦しい)
- 喘鳴が強く、改善しない
- 誤嚥後の急な呼吸苦
介護職は“判断”よりも“迅速な情報伝達と行動”が求められます。
看護師・医師による主な処置
以下は、主に看護師の方が行う処置です。
介護職も知っておくと、状況理解が深まり連携がスムーズになります。
- 酸素投与
- 吸入(β2刺激薬・ステロイドなど)
- 痰吸引
- 点滴(抗生剤・利尿剤・ステロイドなど)
- 胸部レントゲン・血液検査
- 原因疾患の治療(肺炎・心不全など)
その後の原因分析とリスクマネジメント
呼吸苦が落ち着いたら、必ず「なぜ起きたのか」を分析します。
これにより、再発リスクを大幅に減らすことができます。
リスクマネジメント①:誤嚥・食事の再評価
高齢者の呼吸苦の“隠れた原因”として最も多いのが誤嚥。
再評価ポイント
- 食事形態を見直す(刻み・ミキサー・とろみ具合)
- 食事姿勢(顎の位置・座面の高さ)
- 口腔機能(舌の動き、咀嚼力)
- 食事スピード
- 本人の意識レベルや疲労の有無
言語聴覚士(ST)への相談も有効です。
リスクマネジメント②:痰の貯留対策
痰が溜まりやすい利用者には、日頃からのケアが命を守ります。
- こまめな水分摂取
- 口腔ケアの強化(誤嚥性肺炎予防)
- 加湿環境の調整
- 体位変換の頻度見直し
- 一日の活動量を増やす工夫(散歩・座位時間の延長)
- こまめな唾液・痰の吸引(咽頭部分等(奥)は看護師へ依頼)
リスクマネジメント③:感染症対策
呼吸苦=肺炎を疑うことは鉄則。
手順
- バイタルを毎日チェック(特に体温とSpo2)
- 咳・痰・発熱の変化を記録
- 室温・湿度管理
- 流行期はゾーニング・マスク着用の徹底
- 体調不良者の早期隔離と医師連絡
普段から医療職との連携体制や周知等が命運を分けます
リスクマネジメント④:心不全の増悪を見逃さない
高齢者の呼吸苦の原因として非常に多いのが心不全。
こんな兆候があれば要注意
- 下肢浮腫の悪化
- 体重が急増
- 横になると苦しい(起座呼吸)
- 夜間の咳が増えた
日々の観察記録が早期発見につながります。
リスクマネジメント⑤:家族・ケアチームへの共有
呼吸苦は一度起きたら再発の可能性が高いため、
家族・ケアチーム全員で情報を共有しケア方法を統一します。
共有ポイント
- 発生した日時
- 状態の変化(咀嚼・嚥下状態も)
- 行った対応
- 医療機関の判断・治療内容
- 今後の注意点
- 食事・水分・排痰ケアの見直し内容
記録(介護記録・看護記録)のポイント
「状況 → 行動 → 結果」を簡潔に残します。
● 記録例
15:10、ゼーゼーとした呼吸音を認める。前屈姿勢で努力呼吸あり。SpO₂90%。ファーラー位へ体位調整し、痰促し実施。看護師へ報告。吸引後、呼吸改善しSpO₂94%。安静保持。家族へ連絡済み。
医療・介護双方が後から状況を正確に振り返れるように残すことが重要。
まとめ:呼吸苦は“初動の早さ”と“連携の精度”で救える
呼吸苦(喘鳴)は、一つの音に見えて、背後にさまざまな病態が潜んでいます。
しかし、介護職が
- “気づく”
- “落ち着いて初期対応を行う”
- “すぐに看護師へ報告する”
- “原因を分析し再発を防ぐ”
これができれば、利用者の安全は格段に高まります。
介護施設は24時間、利用者の生活を支える場。
日々の観察の積み重ねが、一人ひとりの「命」と「安心」を守り続けます。














コメントを残す